―疾走する美しき銀の弾丸―

古いジュリア・スーパーを転がしながらいつも夢みていた。こいつが錆や腐りを心配する必要のない新車だったらどんなにか良いだろうと。

だが、よく考えをめぐらして見ると同じシャーシー、エンジンを持つアルファスパイダーは93年まで生産しているではないか。

そうか、この手があったか。あれならエアコン、オーデイオも付いているし、なんといってもオープン2シーターのスポーツカーである。

エンスーを気取ってハコを乗り回していても、クルマに興味のない人から見れば只の古くてボロいクルマに過ぎない。だがスパイダーは万人にとっても非常にわかりやすい「格好良い外車」である。ここら辺でマニアが陥りがちな袋小路から抜け出るのも良いかもしれない。


春の桜とスパイダーとの1コマ。こういうシチュエーションで絵になるクルマだ。

休日の早朝、箱根に行くと、小田原厚木のパーキングにワインメタの最終型スパイダーが止まっていた。

いいなあ、このワインメタ、落ち着いていて。そうだ、いかにも汗くさいエンスー車に乗って騒音と故障に悩まされるより、こういうのに乗って爽やかなジャズでも聞きながら、早朝の箱根でも軽く流して、コーヒーを愉しむ方がずっと素敵なんじゃなかろうか?

古いアルファを維持するのに疲れていた私は、そう思うといてもたってもいられなくなった。

手持ちの古いクルマを処分して程度の良いスパイダーを探そうと決心した瞬間である。

当時、小諸にあるストラダーレというショップでは並行輸入で最終型スパイダーの新車を300万強で売っていた。正規デイーラーでの価格が490万程だからこれに比べると随分と安い。小諸まで足を運んで話を聞きにいったが当然300万なんて捻出できず、夢を見るだけで終わった。

しかし、今考えると、本国仕様の新車のスパイダーをオーダーするなんて、なんとも心弾む話ではないか。当時一体何人くらいの幸せ者がこれを注文したのだろう?
ということで、中古を買うことにして、チョイスするのは形が気に入っている最終型、いわゆるシリーズ4とした。この型はカラーバリエーションが結構豊富なのだがシルバーを第一候補とした。
アルファ・スパイダーは赤が多い。実際にも赤が一番似合うクルマだと思う。走っているのを見てもハッとする程、格好良いのだが、私としてはちょっとした外した大人の味わいが狙ってみた。フェラーリあたりでも、お決まりの赤でなくてわざわざ銀や白を選ぶ人ってどんな人だろうってちょっと興味が沸きませんか?

あとは、先述したワインメタも大人びて良いけど、逆にイエローの脳天気そうに見える雰囲気がいいなとも思う。

ついつい写真を撮りたくなってしまう魅力的な造形だ。自然の中も都会的な雰囲気も似合うと思う。

それから数年後、私はやっとスパイダーを購入した。その個体は個人売買で出ていたものを買い逃した後、環八の中古屋で再発見した、何か因縁を感じるクルマだった。
初めて乗った時はああ、失敗した!と思った。まず乗り心地が最悪で、荒れた幹線道路をまっすぐ走らない。195ー60を履いてるスパイダーはアシ周りがバタバタすると聞いていたが、これ程酷いとは思わなかった。
タイヤを見ると恐らく新車装着であろうピレッリP600を付けている。山はあったが硬化しているのだろう。P6000に履き替えてみると乗り心地はなんとか許容できるレベルになった。
もうひとつ不満なのはエンジンのフィールだ。全くドラマの感じられない、やたらと眠たい回り方をする。これじゃとてもじゃないがラテンの熱い血とは言えない。やっぱりキャブのスーパーは良かったと愚痴のひとつもこぼしたくなる。
これについては4年かけてマフラー交換、エアクリーナー交換、ROM交換等で改良を施しつつある。

外観では、やたらとごついリモコンミラーをクロームメッキのドアミラーに換えた。
正規輸入のスパイダーはコイトのシールドビームを装着しているのだがこれもイタリア本国仕様のキャレロに交換、ついでにイエローバルブに換えてみた。フランスあたりで乗られているアルファがイエローバルブを付けていてることがあるのだが、これがヨーロッパらしくて好きなのだ。

室内のモデイファイはまず、ハンドルをナルデイクラシック38経に換えた。思い起こせばコンパーノをGT仕様にする為に買ったハンドルが10年経ってやっと活用できた訳だ。

今年で所有して5年目になる。(2001年現在)先日もCDプレーヤーを装着した。維持費に苦労しながら、また古いアルファに浮気しつつ、なんとか所有してこれたのは、ひとえにその美しいスタイルと最終型ゆえの生き延びる為の妥協に、何か親近感のようなものを覚えたからに他ならない。

CHAPTER1インテリアのデイテールについて  

CHAPTER2エクステリア、メカニズムについて

CHAPTER3スパイダーミーテイング2001

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